ニャ次郎が逝く

＝＝＝＝＝　1997/12/23 ニフティーサーブ犬猫フォーラムでの投稿より　＝＝＝＝＝ 奴には名前が無い。仮にニャジ郎と呼ぼう。 私が始めてニャジ郎に餌を与えたのはいつの事であったろうか。もう３〜４年も前 のような気がするが，その当時の事は，よく覚えていない。とにかく，餌を与える 前から，人懐っこい猫であった事だけは覚えている。 ニャジ郎は歯がほとんど無い。毛色は薄茶色の，恐らく１０歳前後の老猫である。 茹でた煮干しは食べるが，干したままの煮干しには全く歯が立たない。ニャジ郎の 好物は，スモークチーズであるが，今年になってからはそれですらうまく噛み砕け ず，地面を転がすようにして食べるその姿は，まるで哀れとしか言い様が無い。 尻尾は普通の半分くらいの長さしかなく，途中で２ヶ所程折れ曲がっている。悪い 人間に捕まって，かなり痛い目にあったのだろう。 *1 とにかく臭い。３０センチ以内に顔を近づけられない。恐らく自分で毛繕いなど しないのだろう。 背中をマッサージしてやると，口を開けて上を向き，カッカッカと言って喜ぶ。 マッサージした後の手は，畑仕事をした後のように奴の垢で黒くなる。部屋に戻る とすぐに薬用石鹸で汚れを洗い流す。 ニャジ郎はいつも飢えていた。私の顔を見ると，餌くれニャーニャーと鳴きすがる。 鳴き方で，どのくらい腹が減っているのかが判る。あまり腹減ってないなと思った 時や，餌がない時は，シーシーと言って追い払う。それでも居座る時は，洗剤用の ボトルの水鉄砲で追い払う。これは効果絶大で，一目散に退散する。 ・・・ 奴の姿を見なくなってから既に３週間が経った。 去年の冬。 「ひょっとしたら，この冬を越せないんじゃないか・・・」 それでも夏までは元気だった。 春にニャジ郎と茶黒系の若いメス（・・・こいつも名前が無い。仮にニャジ子と呼 ぼう・・何て安易な(^^;）の間に出来た５〜６匹の子猫が大きくなるまでは。 内臓が悪いらしく，時々茶色い異臭を放つ胃液のような液体がコンクリートの上に 付着していた。*2 今年の秋に餌場に鮮血が滴り落ちていたのには流石にちょっとびっくりした。 夏を過ぎる頃には，だいぶ子猫も大きくなり，近所に貰われていったのか，ニャジ 子と同じ柄のメス１匹（仮に，ニャーゴと名付けよう）以外は見なくなった。 しばらくの間，３匹揃って餌をねだりに来る日々が続いた。歯の無いニャジ郎は 一つの餌を噛み砕いている間に他の２匹に残りを食われてしまい，しだいに衰弱し ていく。最後に見た時は，１週間ぶりの事であったが，前足を傷めており，今にも 死にそうな声で餌くれニャーニャーと鳴いた。その日は餌を与える予定は無かった が，見過ごせない状況に，いつものスモークチーズを持ってきて，細かく千切って 与えた。ニャーゴを追い払った後，部屋に戻った。 ニャジ子もニャジ郎とほぼ同時期から見なくなった。今はニャーゴだけが，かつて ニャジ郎が昼寝していた路地を挟んで右向いの家の物置の屋根の上に寝そべってい るだけだ。 ニャジ郎のために買ってあった徳用５００ｇのスモークチーズが冷蔵庫の中に残っ た。娘のニャーゴはチーズはあまり好きでないらしい。ニャジ子と違って人懐っこ いので，食い物には困っていないようだし，こりゃ確実に腐るな。 野良猫は人目の付かない場所に隠れて息絶えるという話がある。どこかでひっそり と息絶えたのか，既に亡骸は近所の住人によって処分されているのかも知れない。 *3 今では夏に友人が外で私と一緒に写してくれた１枚のスナップ写真だけが，ニャジ 郎がこの世に生きていた証しとなった。

注記 *1 猫の尻尾が短いのは、遺伝的なものだろう。折れ曲がっているのは、オス同士による喧嘩の ためか。ちなみにメス同士は喧嘩はしても、大きな怪我をするような事はまずない。 *2 これが猫エイズの症状なのかどうかは不明。 *3 隣のＭさん宅の庭で死んでいたらしい。ニャ次郎の屍は、Ｍさん宅の庭の土の中に埋められ ている。